関係性はつくるもの

さまざまな関係性についての妄言

迅の予知と太刀迅の話(~18巻)

vsガロプラで、太刀川は予知に「勝った」のか?

これはだいたいのワートリ読者が一度は首をひねる問題のひとつだと思う。
私もいまだに定期的に考えるテーマである。こんなひとつの問題を定期的に考えさせられてしまうマンガ・ワールドトリガー、めちゃくちゃ面白いね。

この問題の考察を書き留める前に、まず迅さんの予知について前置きしておきたい。

迅のサイドエフェクトである未来予知は、目の前の人間の未来の可能性をいくつも知ることが出来る強力なものだ。
が、知ることができる未来はチューニングできず、読み逃しも起こる。直接目視したことのない相手の未来は見えない。実現可能性の高い未来は先まで見えるが、そうでない無数の可能性は断片的にしか見えないし、「見た」タイミングによっては可能性がまだ発生しておらず、見えない未来もある。
予知といっても万能ではないのだ。
並行する未来を同時に見ているという迅の視界がどういうものなのか、彼の脳内でどう処理されているのかは余人には分からない。
とはいえ、多少の推測はできると思う。

2巻で遊真と迅が初めて会ったとき、迅は「三雲がこの場所で会う誰かにイレギュラー門の原因を教わる映像が見えた」と言った。
そのコマでは手前から地面に伸びる三雲らしき影のイメージが描かれている。手前に立つ三雲が自分の影を見ているようなコマである。
遊真との対面時、迅は「その誰かは“たぶん”こいつのことだ」と彼の頭を撫でた。
ここから推測できることはみっつ。

1、迅が会ったことのない相手は、すでに知っている相手の未来のビジョンの中に登場しても姿が見えない。そのため、会ったことのない相手の容姿を知ることはできない。
物語の各所でどんな被害が出るかは分かっても、どんな敵が来るかは分からないのはこのため。


また、あとあとの描写から推測するに、目視したことのない相手のトリガーや、目視したことのない新型トリオン兵も基本的に未来視には映らないと考えていいと思う。
だから敵の攻撃方法は未来視では分からず、分かるのはその被害に遭った知り合いの「死因」だけ。
よって、迅は未来視で見た街の壊れ方や人々の負傷の仕方、死因、ボーダー隊員のベイルアウト原因から敵の能力を推理しているのだろう。
だから大規模侵攻編で、敵の人型ネイバーにそれぞれ相性の良い隊員をあてがうように配置することができた。しれっとした顔ですることではないんですけお…

2、少なくとも三雲の未来を見た時点では、未来視時の迅の視点は俯瞰ではなく、未来の三雲視点だったと思われる。(百鬼夜行シリーズの榎木津礼二郎大明神は過去視もちだが、その未来視版みたいな感じか。)

3、迅は未来を見ると表現するが、どうも視覚情報以外の情報(音、日時、位置座標など)も漠然とではあるが得ているようだ。
視覚情報のみを得ているのであれば、三雲と遊真の会話の内容は三雲と相対する遊真の唇の動きを読んで当たりをつけるしかないが、1、で書いたとおり、迅は会ったことのない相手が未来視中に登場しても姿を視認できない。読唇術は使えないはずだ。
とすれば、三雲と遊真の会話の内容について迅は、視覚情報以外から多少のイメージを仕入れていると見てよいだろう。

つまり、迅は未来視によって、未来の目の前の人間が見たビジョンや情報の一部を受信している、ような状態ということだろうか。

また、大規模侵攻編での暗躍ムーヴや、vsガロプラで陽太郎が飛びだしていったのを察知したことから、誰かが未来の分岐をあるルートに確定した場合、離れた場所にいてもそれを察知できることも分かる。

これらを踏まえて、太刀川がまっぷたつにされる予知をしたときのことを考えてみる。
その予知を小南に伝えた時点では、まだ迅はガロプラの侵入者たちを目視していなかった。
迅は小南に「太刀川さんがまっぷたつにされる未来が見えたからついていけ」と言った。
迅は太刀川が「誰に」まっぷたつにされるかには触れていない。

このときの迅のビジョンでは、太刀川がまっぷたつにされる未来だけが見えていて、それをしてきた相手の姿は映らなかった、とも取れる。
だとすると、太刀川をまっぷたつにしてくる相手は迅が目視したことのない人物。
要は斬撃能力のあるトリガーを持つ新しい敵、ということになる。
なので、敵にまっぷたつにされるわけだから、この時点では、太刀川がまっぷたつにされることは敗北以外の意味を持たなかったと思われる。

では、この「強力な駒である太刀川が敵に斬撃トリガーでぶったぎられるという不利な未来」に辿り着かないようにするにはどうしたらいいか?
私は当時それを必死でうんうん考えながら本編を読んでいたのだけれど、やはりナンバーワンアタッカーの発想はレベルが違った。

太刀川は戦闘中、何度も「こっちには予知がついてる」と言っていた。

・どうも自分はぶったぎられるらしいので、ぶったぎられる以外の死因はない
→大砲に組み付くことで「大砲が不発に終わる」未来を確定させる
・敵にぶったぎられる前に味方の小南に自分をぶったぎらせる
→「斬られて敗北」を「斬られて勝利」にルートを変える

迅の予知を信用した上で、それを逆手に取った立ち回りをしてみせたわけだ。死神の精度みたいな理屈こねてんなこのナンバーワン

ただ、だからといって太刀川が迅の予知を覆したといえるかはまた微妙なところで、迅は太刀川が敵にではなく、戦法として小南にぶったぎられる並行未来も見ており、だからこそ小南を同行させた、とも考えられる。
太刀川本人も予知を覆した、ではなく、利用して勝った、と言っているし。
結局なにが正解なのかは分からんね…

何にせよ、迅の予知は一般的な未来視のイメージよりけっこう不便だし、迅の推理能力があって初めてフルに活かせる能力だ。
ワートリは登場人物が多く、彼らひとりひとりに彼らなりの選択がある作品だから、無数にある分岐未来を最善に近づけることの苦労はいかばかりか。
唐沢さんに励まされるシーンとか、三雲に謝るシーンでいつも基本笑顔の迅の表情がとたんに薄くなるところが…おお、もう…。

サイドエフェクトの神の過ちは、アカン能力をアカン奴に握らせた点にある。未来視なんてチート能力はアホに握らせてバランスを取ろうとか考えないサイドエフェクトの神、信頼します。
太刀川も太刀川でメンタルがなんか斜め上をぶっ飛んでいるので、この二人がライバル関係にあるのは納得しかない。

(補足)
vsガロプラで太刀川が人数を偽って奇襲を仕掛けるやり口を用いていたけれど、大規模侵攻編で迅が遊真と仕掛けた奇襲と同じでウワ…となった。
やり口が似ている…

他方、ふたりの性格はあまり似ていないと思う。
太刀川と迅が解説を務めた玉狛vs那須隊、来馬隊戦では、太刀川がズバズバと直截な指摘をした一方、迅は落ちたメンバーの努力をほめたり、三上ちゃんにフォローを入れたり、情を汲むような解説が多かった。
陽太郎にヒュースを帰してやりたいか訊ね、彼に蝶の盾を預けた点にしても、迅は外面は飄々としているけれど、内面は意外と気配り屋でウェットなタイプなのかもしれない。
自分が未来を選択したために生じた犠牲についても、たぶんこっちが想像するよりずっと気に病んでいるのだろう。

13巻の緊急防衛会議終了後、三輪との会話を見ていた嵐山に「前より少し打ち解けたんじゃないか」と言われ、「前向きだねー」とだけ返した迅にはそこはかとない後ろ向きさがある気がする。
迅は三輪との関係改善は難しいし、苦手にされている現状のままでいいと考えているということだ。
このシーンを読んだとき、てっきり私は迅ならいつものうさんくさい笑顔で「マジで?そう?」などとキラリ✴マークを飛ばすのではと思っていたので、この会話は珍しく彼の素の、陰の部分がこぼれ出たシーンとして印象深い。

この先、成長著しい三輪がもう少し歩み寄ったとしても、一見人当たりのよい迅の側が彼に罪悪感を抱えているので、密やかな断絶は消えることはないのかもしれない。
続けて「あまり気負うな、おまえひとりの責任じゃない」と言ってくれる嵐山のストレートさがありがたい。
まあそれに対しても迅は「わかってるって」と落ち着いた様子で返してしまうので、頭を抱えるんですけど…わかってるけど気に病んじゃうタイプじゃん絶対さ…

嵐山がストレートに熱い男なので、それに重ねて何か言うことはしない太刀川の情緒のシンプルさ、ドライさもそれはそれでありがたい対応だ。
迅、嵐山、風間さん、太刀川あたりの中心メンバーは性格面でも本当にバランスがいい。

いつか太刀川vs迅のソロランク戦が描かれ、作り上げられた強固な外面を捨てて勝ちにいくバチバチモード迅が見たいものだ。


いつものことながら太刀迅の話になってないけどしゃーない。
ところで、予知能力のせいで内部分裂フラグの立ってるガロプラが心配です。
普通敵が未来視もちだからなんて考えないもんね…内通者を疑うよね…
未来視やっぱりえげつないよこれ。