関係性はつくるもの

さまざまな関係性についての妄言

ナランチャとジョルノの相似形

炎に照らされたナランチャかっこよかったですね
アニメ、マジでこのクオリティ感謝しかない。

アニメがナランチャ回だったので、今回はナランチャについてちょっとだけ書きます。
ナランチャは、仲間内では口調や態度に幼いところが出るし、メンバーでは一番未熟なようだけれど、とても芯が強い。彼は「ひん曲がらない」のだ。
ナランチャのような経験をしたキャラというのは、安易な描写をされてしまうと、たとえば「金髪」にいい思い出がないからフーゴやジョルノに卑屈に当たるとか、裏切られた過去をいつまでもいじいじ抱えこんで人間不信を強調するとか、逆にブチャラティしか信用できる人間はこの世にはいないんだと思い込んで彼を盲信するとか、そんなキャラにされがちだ。
だが、ナランチャは信じた人に裏切られたのに、ブチャラティの真心にちゃんと気づくし、チームメンバーを信じること(また裏切られる恐怖)に躊躇わないし、トリッシュの心を思いやれるし、重大な岐路にあたってはブチャラティの命令に依存するのではなく、自分の意志で道を決められる。
社会に裏切られたのに、人をひねた目で見ない。被害者づらしない。巨大な組織と上下関係にあっても、誰かを信じるのは自分であり、決断するのは自分だとナランチャは納得できる人なのだ。
ナランチャはその過去に反して心がとても健全で強いのである。
同じく社会に裏切られ、ブチャラティに寄せる信頼はもちろん本物だが、心にずっと澱を抱えて「巨大なものからの命令」を待っているアバッキオと比較すると、それが際だつ。
アバッキオが悪いとか、心が弱いという話は全然していない。アバッキオは生真面目で繊細というだけだ。どっちがいいとかはない)
ナランチャは、「幼いころにひどい虐待を受けた者はひねた心になるしかないのか?」という命題を真っ向から否定してくれるから、小気味よいキャラなのだ。

同じ命題を否定するのは、ジョルノもだ。
ジョルノとナランチャの相似形はよく言われるけれど、ふたりはこういうところもよく似ている。
ジョルノは名もなきギャングに、ナランチャフーゴブチャラティに勇気を与えられ、自分なりに芯のある生き方をしている。
自分を裏切ったモノに対していじけている暇があるなら、その時間を、ジョルノはギャングスターという夢に、ナランチャブチャラティのような上司のために働くことに費やそうときっぱり決めていて、揺らがない。
「幼いころに虐待を受けた者はひねた心のまま?」「ずっと過去にいじけているしかない?」というテーマを、ふたりは「自分で決めた自分の目標に全力投球するのでそんな卑屈なことしてる暇はないですね」と鼻で笑う、そんな被虐待児なのである。
そこが本当にカッコいい。いさぎよい。

ナランチャとジョルノは、自分を虐待した者をカテゴライズして、他人をそこに当てはめることをしない。その個人個人を見て個性を判断できる。

ところで、ナランチャトリッシュを追うさいに自分の過去について言及するが、ジョルノはそういう感傷的なことをいっさい言わない。ちょっと不自然なくらい。自分と似ている境遇のトリッシュにも、別にウェットなコメントはない。仲間として大切に思っていることは疑いないが、自分と同一視することはなかった。
ジョルノはあのギャングと出会い、夢を持った時点で、もうすっぱり過去とは決別してしまっているのかもしれない。
黒髪のハルノの人生と、金髪のジョルノの人生は、ジョルノの中では地続きになっていない…つまり、突然の容姿の変化という「変身」を、ジョルノは精神的な「変身」にも無意識に利用した…とも言えるかもしれない。美容整形によってそれまでの人生と決別しようとする人のように。
だからあんな強烈な母に一言の言及もないのか? あんな過去自体に言及するほどの価値も見いだしていないのか?
忘れようとしてるとかじゃなく、夢のために資するところもないし、そんな意味のないことは無駄だからしないのか?
だとすると、無駄かどうかで感傷をわり切ってしまえるなんて、あまりにも鬼ドリームチェイサーである。

でも、それにしては会ったこともない父親の写真は持ち歩いているし、ジョルノの他人に対する心の距離感は独特なものがある。
ジョルノは他人に夢を見ない(幻想を抱かない、その人の単に本質を見て付き合う)から、浅い本性の分かりきった相手にはもうこれ以上関心自体がわかないのかもしれない。ジョルノ相手に底を知られたら終わり、みたいな、速攻で見切りをつけられちゃうから。
こっちから誰かに見切りをつけるのは、もう彼が誰かの顔色をうかがう子どもからは卒業したことを示す。彼は無駄な付き合いはしない。
だから、会ったことのない、ジョルノから遠い人物であればあるほど、むしろジョルノの興味の対象になる。
実父の写真を持ち歩いているのは、ジョルノが彼についていかに何も知らないのかの裏返しということ? 会ったことのない相手に見切りをつけることはできないから、とりあえず実父だというし、まだ捨てずに持ち歩いているのか?
少なくとも感傷由来の行動ではなさそうだ。
他人の見方が王者のそれなんだよねやっぱり…

けれど、感傷ぶらないジョルノがナランチャにシンパシーを覚えていたと読めるシーンがある。
ナランチャを置いていくとき、これ以上何もナランチャを傷つけることのないよう、ジョルノは遺体を草花で覆う。
ここには、誰かに傷つけられつづけた経験を持つ者どうしとしての共感と思いやりがあるし、身体を植物で囲うやり方が、かつてジョルノがその孤独に共感した名もなきギャングを知らず知らずに守ったやり方に通ずる。
ようはジョルノが誰かの身体を植物で覆うのは、「自分と同じだ」と思った相手を守るときの行動なのだ。

ジョルノはあのとき、ナランチャをあらゆる苦痛から守りたいと心から思っていたのだろうと分かる。
手当てが間に合わなかったと分かって涙を浮かべるときのジョルノの心中を想うとつらい。
密かに自分と似ていると自覚していた仲間…同志が、また理不尽な暴力によって傷つけられてついに命を落としたわけで、自分の尊厳と命を一方的に蹂躙される屈辱をナランチャがふたたび味わわされてしまったことは、ジョルノには追体験じみた共感があっただろう。
そのへんの一般人がつらかったね、悲しかったね、と言うのとは真の迫り方が段違いだったはずだ。

ジョルノは生意気な新入りだが、ナランチャは先輩風をふかせつつ、彼をちゃんと認めてくれていた。
しかたねーから先輩としてジョルノの面倒を見てやるぜ~このオレが!みたいなナランチャの、年相応の歩み寄り方はジョルノからすれば微笑ましかっただろう。
スクティツをふたりで撃退したときは、お互いに信頼関係がなければ成功しなかった。
ジョルノが鉄面皮の裏でナランチャに向けて育てていた共感が、あんなかたちで表出させられてしまったことが悲しくてならない。
彼らの間でだけ共有できた感情や会話がもっといくらでもあったはずなんだと思うとやりきれない。旅はすべてにおいて短すぎたよ。


(余談)
ナランチャに子どもは親のとこに帰るものだと言い、トリッシュにそんなことを心配する親子はいないと言ったり、ブチャラティナランチャ・ジョルノ・トリッシュには、親子観の一点に置いては埋めがたい断崖がある。
信じられる両親を持ったブチャラティは、世の中には悪い親もいると理解してはいるが、まずは親を信じてみようという傾向が働く。
でもこれはブチャラティが虐待や親子の断絶に無理解なわけじゃない。ギャングやってるわけだし。
ブチャラティがまず親を信じてみる方向に梶を切るのは、やはり「それで丸く収まったならそれが本人にとって一番コストが少なくて済む解決法」だからだろう。

ブチャラティだって親の庇護なしに(というかブチャラティが親を守る立場だった)生活する苦労はよくよく分かっているから、いくらつらい目にあったからといっても、安易に親に背を向けてそんな苦労を背負い込もうとする子どもの軽挙をたしなめずにはいられないんだろう。
おまえはこっちに来れば苦痛とはおさらばと思い込んでいるかもだが、楽観的で衝動的な行動で被保護者のおいしい立場をみすみす失うな、もし親が金なり何なり出してくれるならそれを甘んじて受けろと、現実的な視点から叱ってくれる大人が、ブチャラティなんだろう。
甘ったれるな、というセリフはそういう意味なのだ。子どものうちに利用できるものは利用しろ、妥協を覚えろ、頭を使え、みたいな。
まあ家には帰らないと言い張る若者に対する常識的な大人としての対応はああだよね。

ナランチャのときはそういう方向性で叱ったブチャラティだが、トリッシュのときはまた事情が違った。
親に早々に見切りをつけていたナランチャと違い、トリッシュは父親とこれからどうやっていけばいいかを悩んでいた。
トリッシュが親子関係の再構築に多少なり未来をみていたから、ブチャラティトリッシュの想いを尊重し、大丈夫さと背中を押したのだ。
それが、あんなかたちでボスはトリッシュの希望を踏みにじり、トリッシュのために彼を信じたブチャラティの心を裏切った。
そこで激怒するブチャラティ、どこまでも徳が高い。
(ちなみにここ、「その人のことを考えると勇気がわいてくる」ナランチャブチャラティと繋がる、「いつも勇気を与えてくれる」ブチャラティ→ジョルノがエモエモのエモ。チームメンバーにとってのブチャラティが、ブチャラティにとってはジョルノだったんだっていう。)

そんなブチャラティがジョルノの過去に接したときにどう反応するのか見てみたかった。
まさかおまえにそんな過去があったなんて、と驚いたあとは、すでに割り切っているジョルノ本人よりブチブチにブチ切れてくれそう。

あとアニメ、フーゴがジョルノに「参謀気取りか?」と嫌そうにするアニオリがとても良かった。そうだね参謀役はずっとフーゴだったんだろうね…それをぽっと出の新入りにでかい顔されちゃムカつくよね…
ブチャラティチームが自分の唯一の居場所だと思い定めている人々の感情、新入り猫が来たときの先住猫か?
アニオリを全力信頼できるアニメというのは本当に稀有なので、ありがたい限りです。