関係性はつくるもの

さまざまな関係性についての妄言

ジョミブルの話

今回は地球へ…という名作漫画のジョミーとブルーについてちょっと書きたい。ジョミブルはいいぞ

人間社会では「不適格」の烙印を押されたミュウのジョミーは、ミュウでありながら強い生命力をもつことから、ミュウと人間の架け橋となることをブルーに見込まれる。
ブルーはミュウの指導者だが、寿命が近く、後継者を求めていた。
ところが、作中の描写、移し替えるなどの言葉のチョイスが、「ジョミーはブルーの次の器にされたのでは?」という疑問を抱かせる。

一回目に読んだとき、私は結構ブルーに怒っていて、ジョミーへのほぼ問答無用の引き継ぎ(しかも三世紀ぶんの彼の記憶や感情をまるっと伝えるなんてやり方で)が、ジョミーの人格をないがしろにしているように思った。
ミュウはミュウでそりゃ生き残るのに大変でしょうけども、ジョミーにはジョミーの人生があるんですけお…となってしまったのだ。
ジョミー本人がそれを思いのほか素直に受け入れてしまったのも、なんで!?ジョミー!君の人生やねんで…となった原因のひとつである。
ブルー→ジョミーの引き継ぎは、クローン技術を用いないブルーによる自我の引き継ぎにしか見えなかったのである。当時は。

でも今は、あれはジョミーが選択した結果でもあると納得している。
ジョミーは生まれつき激情とも呼べる強烈な生命エネルギー、感情エネルギーを持っているキャラクターだが、たけみや先生によれば、彼はあんな腐った世界で何かを成したい、何かを変えたいという思いが原動力にあるのだという。キース同様に。
その具体性のない、しかし本能的な欲求に、ブルーの想いが明確な方向性と形を与えた結果、本編でジョミーがソルジャーとなったのだろう。
ジョミーは自らの本能の叫びの昇華を、ブルーの願いを叶えることによって…ミュウの運命を変えることによって成すことを志したのだ。
実はジョミーとブルーの利害は一致していた、ともいえるか。ブルーはジョミーの羅針盤だった。

もちろんそれだけではなく、ジョミーはブルーのテラへの深い想い自体にも心打たれたのは間違いない。
望郷、という念は古くから描かれてきたテーマだけれど、現代人的にはいまいち実感が湧かないところでもある。
しかも、たとえば一人暮らしを初めて実家の空気やご飯が恋しくなるとかの卑近な感情ならばまだしも、ミュウたちは地球を知識でしか知らない。
遠い先祖の出身地を、いくら現状が苦境だからといっても、そんなにまで求めるものだろうか。
でもやっぱり、テラに行かないと始まらないんだと作中人物たちは決意するんだよな…
途中、(破壊されてしまったとはいえ)テラでない新天地に根を張ろうとしたこともあったのに。

望郷とは、帰り着きたい、排斥から逃れ自分のホームがほしいという思いに他ならない。
現代でもクルド人関係のあれこれとか、国を持たず世代をこえて祖先のふるさとをもとめる人々の苦悩はないわけじゃないのだ。
ミュウたちはあの美しい星へたどり着きたいという一心で戦い続けるが、いざ現在の地球が変わり果てた無残な星であると知ると、やはり悲しんでいた。それでもやはり、ジョミーはテラに降り立つ。
思惑はそれぞれだ。安全なホームを求め続けてきたミュウたち、テラには居場所がないと感じるナスカの子どもたち、そして、現在のテラの支配管理体制に「こんなはずじゃなかった」と愕然とするミュウたち。
ここは読んでいてすごいつらかった覚えがある。
ブルーに、フィシスの記憶に、ジョミーの意志の強さに、ずっと夢を見てきたミュウたちにはものすごい絶望だったと思う。
でもジョミーはその間の政治的駆け引きのシーンでも終始落ち着いていた。

ジョミーはミュウたちの導き手であり、確かに、本能レベルでテラに心ひかれる自分を自覚していたけれど、彼を一番に突き動かしていたのは、最期まで「あのブルーが命懸けで焦がれた星に行きたい」「ブルーの願いを遂げる」という想いだと思う。
ジョミーは自分の心にブルーの心を住まわせて対話していた。
ブルーの立体映像をひとり見つめ、ブルーの記憶を記憶バンクから引き出して、テラをついに目の当たりしたときには「誰かの意識が自分の中ではねた」とも言っている。
ジョミーはすすんでブルーの心と自分の心を同化あるいは同期させようとしてきた。

中盤以降、ナスカを失ったジョミーが冷酷な指揮官として辣腕をふるいはじめ、周囲に厳格に接すれば接するほど、こうした彼の「ブルーを子どものように一途に求める姿」は重みを増していく。
ブルーの願いを自分の願いにしたジョミーには、もはやブルーの喜びが自分の喜びで、ブルーの成したかったことが自分の成すべきことだっただろう。おれはおまえでおまえはおれ…
ジョミーがブルーと過ごした時間と比べて、彼がブルーに捧げたものは大きすぎたかもしれないが、ジョミーは自分を愛するようにブルーを愛していたのだ。
ブルーの悲しい半生を知って、彼の魂を知ったときから、理屈ではない慕情が彼に向かってやまなかった。登場人物たちがみなテラに惹かれたように。
(追記:思えば、ブルーというかつて美しかった昔の地球を連想させる色が彼の名前である時点で、ジョミー→ブルーの慕情は表現されていたのか。)

だから、ジョミーがブルーの願いの犠牲になったという指摘はあたらないと思う。

そういうわけでジョミーとブルーは、関係性が健全であるには二者間に貸し借りという段差がないことが必須だと思い込んでいた小さいころの私にとっては、カルチャーショックもんだった。
地球へ…はいいぞ。